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大阪地方裁判所 昭和59年(ワ)7047号 判決

原告

新東宝自動車株式会社

ほか二名

被告

大薫株式会社

主文

被告大薫株式会社は原告小坂昭夫に対し、金一五九万八、七一〇円およびこれに対する昭和五九年三月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告新東宝自動車株式会社に対し、金一二〇万二、二五九円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告中谷保に対し、金一八九万二、〇〇〇円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告大薫株式会社の負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、原告小坂昭夫に対し、金二一四万一、一四二円およびこれに対する昭和五九年三月二〇日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告新東宝自動車株式会社に対し、金二〇三万七、八五〇円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告中谷保に対し、金二八六万円およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告らの主張

(一)  当事者

原告新東宝自動車株式会社(以下原告会社という)は、一般乗用旅客自動車運送事業を営む株式会社、原告小坂昭夫(以下原告小坂という)は、同社に勤務するタクシー運転手、原告中谷保(以下原告中谷という)は、庭園樹販売・造園設計施工を業とする者であり、被告大薫株式会社(以下被告会社という)は、製紙原料売買全般及び洋原紙の売買を主たる目的とする株式会社である。

(二)  事故の発生

(1) 発生時 昭和五九年三月二〇日午前二時二五分頃

(2) 発生地 大阪府八尾市服部川一五〇二番地先道路通称

旧国道一七〇号線(南北道路)

(3) 加害車 普通貨物自動車 (大阪一一た五四三)

(4) 運転者 被告会社従業員(氏名不祥)

(5) 被害車 原告小坂運転の原告会社所有普通乗用自動車(大阪五五か三三四)

(6) 事故の態様

原告小坂は、本件道路を南から北に向つて進行し、事故現場の手前交差点の対面信号機が赤色に変つたので信号待ちのため停止していたところ、加害車は本件道路を北から南に向つて無灯火且つ時速約六〇キロメートルの速度でセンターラインを越えて蛇行運転して走行し、対面赤色信号を無視して本件交差点に進入して被害車と正面衝突したことから、被害車は本件道路西側の田に転落して大破し、加害車は本件道路東側の原告中谷が借地をして植木畑として使用している大阪府八尾市服部川五一一番地に突つこんでやつと停止した事故が発生したのに、加害車運転手は事故発生の報告及び被害車の救護もしないまま現場を離れて逃走した。

(三)  被告会社の責任

1 加害車運転手は、制限速度を超えた時速約六〇キロメートルの速度で走行し、かつ、無灯火で赤信号を無視したのみならず、センターラインを越えて、停車中の被害車に加害車を正面衝突させたもので、加害車運転手には、信号無視、右側通行、前方不注意、制限速度違反の過失がある。

被告会社は、右運転者の使用者であつて、かつ、業務の執行中に本件事故が発生したから、民法七一五条により使用者責任を負う。

2 被告会社は加害車を保有し、自己のために運行の用に供する者であるから、自賠法三条により運行供用者責任を負う。

3 仮りに、本件事故が加害車盗難中の事故であつたとしても、被告会社には次のとおりの管理責任があるのに、被告会社従業員らはこれを次のとおり怠つた過失があるから、民法七〇九条、同七一五条により不法行為責任を負う。

(1) 加害車は、被告会社がその業務遂行目的のために所有していたトラツクであるが、本件事故前日の昭和五九年三月一九日午後四時三〇分頃、最後に加害車を使用した被告会社従業員訴外畠中俊彦(以下畠中という)は、加害車ドアーに施錠せず、エンジンキーを差し込んだまま駐車場に駐車していた。

(2) 加害車が駐車していた駐車場は、旧国道一七〇号線に面した間口約三〇メートル、奥行き約二〇メートルの青空駐車場用地のうち、被告会社が賃借していた三分の二に相当する北側部分であるが、右駐車場には、門扉、ロープ等の設備はなく、第三者が自由に出入りすることの出来る構造となつていた。

(3) 更に被告会社は、本件加害車についてだけでなく、日頃から前記空地に駐車させていた保有車両につきその数台について、エンジンキーを差し込んだまま施錠もせずに本件駐車場に駐車することを認めていたもので、その保管状態は非常にずさんなものであつた。

(4) 被告会社従業員訴外大迫(以下大迫という)は、事故当時、被告会社関係車両を集中管理すべき業務上の注意義務があつたのに、これを怠り、昭和五九年三月一九日の営業終了時に加害車を含めたエンジンキーの返還の有無の確認を怠り、かつ、被告会社に依頼されて夜間警備にあたつていた関西マネジ警備(株)の警備員も、その義務をつくさなかつた。

(5) 第三者が自由に立ち入ることのできる本件駐車場に、夜間から早朝にかけての長時間、ずさんな管理体制のもとでエンジンキーをつけたまま、加害車を駐車させておくことは、何人かによつてその車を無断運転されるおそれがあり、かつ、現在のような危険に満ちた交通事情のもとにおいては、その無断運転者が交通事故を起して、第三者に損害を与えるおそれもあるのであるから、被告会社従業員がキーを付けたまま車を長時間放置し、管理責任者がその管理を怠つた過失行為と、それに基づく盗難及びそれに引き続いて起つた本件事故との間には、相当因果関係がある。

(6) 本件事故現場は、加害車が駐車していた駐車場から南へ一直線の約二キロメートル弱しか離れていない旧国道一七〇号線道路上であつて、窃取場所と事故現場とは時間的、場所的に近接している。

(四)  損害

1 原告小坂の損害

(1) 受傷の部位及び治療状況等

原告小坂は、本件事故により、左頸部捻挫、左第四指切傷、右大腿打撲の傷害を受け、昭和五九年九月二〇日症状固定の診断を受けるまで通院した。後遺障害としては、自覚症状として頭痛、頸部痛、肩こり、頸部の軽度の運動傷害が、他覚症状として頸部筋緊張大で自律神経障害が残存した。

(2) 治療費 二万五、三四五円

(3) 休業損害 二九万八、九九四円

内訳

(ア) 給与減額分(事故前三か月の平均月収二五万二、三〇〇円から昭和五九年三、四、五、六、八月分の月収をそれぞれ差引いた合計額)二五万三、〇七二円

(イ) 賞与減額分 四万五、九二二円

(4) メガネ代 五万六、〇〇〇円

(5) 後遺障害逸失利益 四八万七、一三二円

原告小坂はタクシー運転手として原告会社に勤務し、年間三五六万七、四三二円の収入を得ていたところ、前記後遺障害のため、少なくとも三年間にわたつて五%の労働能力を喪失したものと考えられるから、原告小坂の将来の逸失利益をホフマン式により中間利息を控除して算定すると、四八万七、一三二円となる。

(6) 慰藉料 一一〇万円

(7) 弁護士費用 一七万円

2 原告会社の損害

(1) 被害車修理費 一四四万七、八五〇円

(2) 休車損 四〇万円

一日当り一万円の割合による四〇日分

(3) 弁護士費用 一九万円

仮りに、被害車修理費が認められず、全損と評価しても、原告会社は次のとおりの車両損害を被つた。

(1) 被害車両の事故当時の評価額 一二〇万円

(2) ペイント及びアンダーコーター、看板マーク文字 一六万円

(3) タクシーメーター 一〇万八、〇〇〇円

(4) タコグラフ 二万九、六〇〇円

(5) 社名表示灯、割増表示灯 一万〇、一〇〇円

(6) タクシーメーター、タコグラフ、社名表示灯等取付費 三万五、〇〇〇円

(7) 無線機、アンテナ、設備変更届料 一三万五、〇〇〇円

合計 一、六七万七、七〇〇円

3 原告中谷の損害

原告中谷の植木が養生されている植木畑(服部川五一一番地)に加害車が突つこみ、植木をなぎたおして停車したため、左の植木の芯木や枝を破損し、商品価値を全損ないしは半減する損害を与え、又、現場の植木畑の修復作業を必要とする状態にした。

(1) 植木毀損よる損害 二一〇万円

内訳

マキ五本 二〇〇万円

ツゲ三本 七万五、〇〇〇円

椿一本 二万五、〇〇〇円

(2) 植木畑修復作業代金 五〇万円

合計 二六〇万円

(3) 弁護士費用 二六万円

(五)  結論

よつて、原告らは被告会社に対し、本訴請求の趣旨記載(但し、事故日より求める遅延損害金は民事法定利率による。)のとおりの判決を求める。

二  原告らの主張に対する認否

(一)のうち、被告会社が製紙原料売買全般及び洋原紙の売買を主たる目的とする株式会社であることは認め、その余は不知。

(二)のうち(1)ないし(3)及び(5)のうち被害車の登録番号は認めるが、同(4)は否認し、その余は不知。

(三)のうち1、2は争う。同3の(1)は認める。(2)のうち、加害車が駐車していた駐車場は、旧国道一七〇号線に面した間口約三〇メートル、奥行き約二〇メートルの青空駐車場用地のうち、被告会社が賃借していた三分の二に相当する北側部分であることは認め、その余は不知。同3の(3)、(4)は不知。同3の(5)は争う。同3の(6)のうち、本件事故現場は、加害車が駐車されていた駐車場から南へ一直線の約二キロメートル弱しか離れていない旧国道一七〇号線道路上であつたことは認め、その余は争う。

(四)は不知。

三  被告会社の主張

(一)  被告会社所有の加害車は何者かによつてこれを窃取され、その窃盗犯人が乗り捨て目的で加害車を運行中に本件事故が発生したものであるから、被告会社はその運行を指示制禦すべき立場になく、かつ、被告会社は次のとおり、管理義務をつくしていた。

1 エンジン・キーの管理

(1) 被告会社では、日ごろ駐車車両のキーを抜き取つて集中管理しており、営業終了時(午後六時)には配車係社員がキーの抜き忘れの有無を確認していた。

(2) 本件加害車は、営業終了時の少し前に帰社したが、後に帰社する他車両と駐車位置を交換することもあるため、運転者が気を利かせてエンジンキーを残したものである。

2 加害車の駐車状況

(1) 加害車は、三方を障害物に囲まれた駐車場奥に旧国道を背にして駐車し、その後帰社した被告会社のトラツク(四屯車、二屯車)が三台、本件加害車と右道路との間に並んで駐車した。

(2) したがつて、加害車は、右のトラツクを移動させなければ旧国道に出られない位置にあつて、エンジンキーも道路からは確認できないうえ、加害車は大型トラツクであつて運転席が高いため車外に立つだけはキーの有無が確認できない状況にあつた。

(3) ところが、本件加害車の窃盗犯人は、道路から駐車場奥に入り込んで物色したものらしく、その上加害車を何回も他のトラツクに衝突させて強引に進路を開き、乗りすて目的で盗み出したものである。

3 夜間警備

(1) 被告会社は夜間、警備会社に依頼して、照明があてられていた本件駐車場を含む同社の全施設を警備させていた。

すなわち、ガードマンが午後八時から翌朝午前六時の間、駐車場から旧国道を挟んで斜向いにあつて本件駐車場を見わたせる被告会社社屋に駐在し、本件駐車場等を巡回警備していた。

(2) 本件の車両盗難当日も、平常どおり右の警備が行われていた。

4 被告会社の無責

(1) 以上のとおり、被告会社は日ごろから自社の車両の保管に欠けるところがなかつた。

(2) また、本件の車両盗難当日も、前記の保管状況からして、同社には車両保管上の過失がないばかりか、被告会社は第三者による加害車の運行を外形的・客観的にせよ容認していなかつた。

(3) また、ガードマンの警備する駐車場の奥から、他車に何度も衝突させて車両を盗み出す手口は、巧妙かつ大胆なプロの手口であつて、通常の保管方法では盗難を防止し得なかつたうえ、持ち出し困難な場所に駐車中の大型トラツクが第三者に窃取され、かつ、第三者によつて事故が惹起されることまで予見しえず、相当因果関係も認められない。

(4) したがつて、被告会社は、本件事故につき、自賠法三条、民法七〇九条、同法七一五条のいずれの責任をも負うものではない。

(二)  原告小坂の後遺障害は、自賠責調査事務所において非該当と認定され、かつ、症状固定後も事故前と同様に稼働しており減収もなかつた。

四  被告会社の主張に対する認否

(一)は不知。

(二)は不知。

第三証拠

記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

第一当事者

被告会社が製紙原料売買全般及び洋原紙の売買を主たる目的とする株式会社であることは、当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一七号証、証人車田一二三の証言、原告小坂、同中谷各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告会社は一般乗用旅客自動車運送事業を営む株式会社、原告小坂は同社に勤務するタクシー運転手、原告中谷は庭園樹販売、造園設計施工を業とする者であることが認められる。

第二事故の発生

成立に争いのない甲第二、第七号証、原告中谷本人尋問の結果により原告ら主張どおりの写真であることが認められる検甲第九、第一〇号証、被写体につき争いがなく、原告中谷本人尋問の結果により原告ら主張どおりの撮影者、撮影年月日であることの認められる検甲第一一、第一二号証、原告小坂本人尋問の結果並びに当事者間に争いのない事実を総合すると、次の交通事故が発生したことが認められる。

(一)  日時 昭和五九年三月二〇日午前二時二五分頃

(二)  場所 大阪府八尾市服部川一五〇二番地先の旧国道一七〇号線(南北道路)路上

(三)  加害車 被告会社の保有する普通貨物自動車(大阪一一た七五四三号)

(四)  被害車 原告小坂運転する原告会社所有の普通乗用自動車(大阪五五か三三四)

(五)  事故態様 原告小坂が被害車を運転して本件道路を北進し、事故現場の手前交差点の対面信号が赤色に変つたので信号待ちのため停車していたところ、本件道路を北から南に向つて時速約六〇キロメートルの速度でセンターラインを越え、蛇行運転して走行してきた加害車が対面赤信号を無視して本件交差点に進入後、被害車と正面衝突した。

加害車の衝突により被害車は道路西側の田に転落して大破し、加害車は道路東側の原告中谷が借地をして植木畑として使用している大阪府八尾市服部川五一一番地に突つ込んでやつと停止したが、運転者は報告義務及び救護義務をつくすことなく逃走した。

第三責任原因

一  事実関係

(一)  加害車は被告会社がその業務を遂行するために所有していたトラツクであること、加害車は、本件事故前日の昭和五九年三月一九日午後四時三〇分頃、被告会社従業員畠中により加害車ドアーに施錠せず、エンジンキーを差し込んだままの状態で本件駐車場に駐車されていたこと、加害車の駐車されていた本件駐車場は、旧国道一七〇号線に面した間口約三〇メートル、奥行き約二〇メートルの青空駐車場用地のうち、被告会社が賃借していた三分の二に相当する北側部分であることは、当事者間に争いがない。

(二)  前掲甲第七号証、成立に争いのない乙第三号証の一、二、第四号証の一、二、第六号証、証人富田廣明の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第二号証、証人磯邊一誠の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証、原告ら主張どおりの写真であることに争いのない検甲第一ないし第八号証、前掲検甲第九ないし第一二号証、証人富田廣明の証言により被告会社主張どおりの写真であることの認められる検乙第一、第二、第四号証、被告会社主張どおりの写真であることに争いのない検乙第三号証、証人畑山昌保、同磯邊一誠、同西野明蔵、同畠中俊彦、同富田廣明(第一、二回)の各証言(但し、証人富田廣明の証言中、後記借信しない部分を除く。)を総合すると次の事実が認められ、右認定に反する証人富田廣明の証言(第一、二回)は借信しえず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

1 本件駐車場は、東側が旧国道一七〇号線に面し、北側は畑に接し、西側の隣地には松の苗木が植樹され、南側は民家の塀により隔てられているものの、駐車場の所有者もしくは使用者によつては周囲を囲む施設、設備などの工作物が建造されていないうえ、被告会社の使用する北側部分と梱包運送業を営む訴外武田晃一の使用する南側部分とを区分する工作物も設置されていない駐車場であつて、かつ、路面も田畑を盛土して整地した以外はアフフアルト舗装がなされたり、もしくは、砂利がまかれるなどのおおよそ駐車場とよばれるにふさわしい工作がなされた跡が全くみられない露天駐車場であつた。また、本件駐車場は、被告会社関係車両、とりわけ、下請及び会社従業員並びに顧客などが自由に駐車できる駐車場であつた。

2 被告会社は、製紙原料の売買を主たる目的とする株式会社であるため、(ア) 保有車両も一二、三台程度をかぞえ、そのほとんどの車両は運転者が特定されていた特定車であつたものの、運転者の特定しない不特定車が二台あり、営業時間中は、特定車の場合は自動車のエンジンキーはその運転者が抜き、これを被告会社に返還するときには本件駐車場の南西向いに所在する本社社屋事務所のキーボツクスへ返すこととなつてはいるが、運転者自らが自動車のキーを所持していることもあつた。また、不特定車の場合は、続いてその車両を運行する運転者の利便のため、また、必要に応じて駐車位置を移動させるためにエンジンキーを当該車両につけたまま放置しておくことがあつた。(イ) 火災による危難を避け、これを防止することを主たる目的として本件駐車場北向いにある被告会社倉庫上部に水銀灯を設置し、また、午後八時から翌朝午前六時までの警備は関西マネジ警備(株)に依頼して夜間警備にあたらせていた。右の理由から、被告会社保有車の営業時間外のエンジンキーの保管は、各車両の駐車位置も定まつていないこともあつて、もつぱら、本社社屋事務所内にキーボツクスを設け、これにより被告会社保有車のみならず、その下請保有車についても集中管理するシステムを採つており、営業時間の終了時に、まず業務課長がこれを点検し、続いて警備員が点検することとなつていた。

3 加害車は車体に被告会社名が表示された四屯トラツク不特定車であつて、昭和五九年三月一九日午後四時三〇分に加害車を運転して帰社した畠中はエンジンキーを差し込んだままドアーに施錠せず、本件駐車場へ駐車する後続車への配慮から駐車場北側奥に既に駐車されていた二屯トラツク二台に接近してその南側に西向きにして加害車を駐車させた。

4 昭和五九年三月三一日からプレス工場長に転出した西野にかわつて業務課長(通称配車係)となつた大迫は、従業員の岩本に対し、同月二〇日午前五時からの業務に加害車を使用(但し、被告会社における通常の始業時刻は午前七時)することを命じ、配車の手配業務は行なつたものの、下請保有車も含めた車両を集中管理しているキーボツクスの点検業務を失念してしまつた。

5 関西マネジ警備(株)は、被告会社の依頼に基づき、午後八時から翌朝午前六時まで被告会社の本社社屋、工場、倉庫及び本件駐車場を警備するため常駐警備員として山下功を派遣していたが、右山下は事件当夜公休日であつたことから、昭和五九年三月一九日の夜間警備は川口貴司が勤務につき、夜八時三〇分の最初の巡回時には本件駐車場も点検し、同駐車場にトラツク七台が駐車されていたことを確認したが、警備報告書には異常認めずと記載され、また、その後は駐車車両の増減がなかつたために何らの記載もなされておらず、関西マネジ警備(株)の助言により被告会社本社事務所に集中管理されているキーボツクスの点検については事故当夜の警備報告書には全く記載がない。

右川口は、昭和五九年三月二〇日午前一時三〇分から同四時三〇分までの仮眠時間のうち、午前一時三〇分に就寝して後の寝入つたときにトラツク発進音を聞いたが、他社の車両が発進する音だろうと思い、あえて起床してまで確認せず、そのまま寝込んでいた。警察官畑山昌保は、同日午前二時四五分ごろに被告会社に到着して関西マネジ警備(株)の巡回車で巡察中の同社従業員南保に対し、加害車による事故発生を報らせるとともに、川口に対してその運転手を調べるため被告会社運行管理者を呼び寄せることを指示したことから、被告会社業務課長大迫が呼び寄せられ、警察官から詰問を受けて後、その指示で大迫は事故現場へ急いだ。

6 昭和五九年三月二〇日午前二時四三分ころ本件事故現場にかけつけた八尾警察官警ら係巡査部長畑山昌保は、現場保存に務めるとともに、現場を逃走した加害車運転手の捜査を始めたところ、加害車運転席には酒気帯び運転をしていたものと判断しうる程度に酒の臭いが残つていたことを確認し、更に、八尾警察署交通係の署員が現場到着後には、運転者の身柄を確保するため被告会社に赴き、管理責任者を呼び寄せて加害車運転手を問い正そうとしたが、右管理責任者大迫はこれに答えることができなかつた。続いて、右管理責任者を伴ない被告会社保有車両等の鍵の保管状況を調査したところ、被告会社保有車両のみならず下請車両の鍵を集中管理するキーボツクスの中央部分の鍵三個が掛けられていない状態となつているのを現認し、これを詰問した際、右管理責任者は、従業員が夜遅く帰社したり、従業員の早朝勤務のときにはその使用車にエンジンキーを差し込んだまま帰宅することもある旨返答した。

続いて、本件駐車場へ向かい、駐車中の被告会社関係車両七台の運転席側ドアーを全部点検してみたところ、施錠されていなかつた車両が二台あり、右二台にはエンジンキーが差し込まれたままになつていた。右のエンジンキーが差し込まれたままになつていた二台のうちの一台は旧国道一七〇号線に面し、東に向けて駐車されていた四屯トラツク車であつて、他の一台は被告会社の使用する駐車場南西側に西に向け駐車されていた二屯車であつた。

八尾警察署では、被告会社が盗難被害届を提出しないためもあつて、車両盗難被疑事件としては捜査せず、業務上過失傷害被疑事件として、なお、捜査中であるが、加害車のハンドルから指紋が検出されなかつたことなどから、加害車運転手の割出しに難行している。

7 被告会社では、旧国道一七〇号線に面したところに駐車されていた北から四屯トラツク、二屯トラツク二台の合計三台の車体が、加害車を本件駐車場から運び出す際に凹損されたものとして、右四屯車については右後部荷台の曲つたあおりの支柱を被告会社においてハンマーにより修復し、右二屯車二台については北側に駐車されていた車両のフロントパネル右側、南側に駐車されていた車両のフロントキヤビン左コーナー部が各損傷部であるとしてその後修理がなされている。

(三)  本件事故現場は、加害車が駐車されていた駐車場から南へ一直線の約二キロメートル弱離れた旧国道一七〇号線道路上であつたことは、当事者間に争いがない。

二  当裁判所の判断

(一)  不法行為責任

1 管理義務違反

右認定事実によれば、本件駐車場は旧国道一七〇号線に面した間口約三〇メートル、奥行き約二〇メートルの露天駐車場のうち、北側三分の二を使用し、田畑を盛土して整地した以外はおよそ駐車場と呼ばれるにふさわしい工作がなされた跡がなく、四囲を囲む施設、設備などの工作物は何一つ建造されていない駐車場に加害車を駐車させていたのであるから、営業時間外はいうに及ばず、営業時間内においても、当該運転手に対し、エンジンキーを抜き取り、ドアーに施錠すべきことを指示撤底させ、これを監督すべき注意義務があるのみならず、被告会社は、関西マネジ警備(株)の助言に基づき、キーボツクスを設けて下請所有車両も含む被告会社保有車両を集中管理し、夜八時から翌朝午前六時までは関西マネジ警備(株)に警備を依頼するなどしていたのであるから、管理責任者(業務課長大迫)をして、常に、エンジンキーの返還の有無を確かめさせ、また、関西マネジ警備(株)警備員をして、これを再度チエツクさせ、これの返還のないことを認めたときには、当該車両からエンジンキーを抜き取り、ドアーに施錠したうえエンジンキーをキーボツクスへ返還することを指示撤底させ、これを監督すべき注意義務があつたことが認められ、また、被告会社従業員畠中は、加害車を右の如き本件駐車場に駐車させる際きは、エンジンキーを抜き取りドアーに施錠して、エンジンキーをキーボツクスに返還しておくべき注意義務があつたのに、昭和五九年三月一九日午後四時三〇分頃に帰社した際、本件駐車場へ駐車する後続車への配慮から、加害車がのちに移動されることを予測し、エンジンキーを差し込んだまま、ドアーに施錠することもなく被告会社の使用している本件駐車場ほぼ中央西側に駐車させたままの状態にした過失が認められ、また、被告会社及び下請の車両管理責任者である業務部長大迫は、キーボツクスにより常にエンジンキーの返還の有無を確かめ、これの返還のないときには当該車両からエンジンキーを抜き取り、ドアーに施錠したうえエンジンキーを返還保管すべき注意義務があつたのに、勤務を終えて退社する際にキーボツクス内のエンジンキー返還の有無を全く確認しなかつた過失が認められるうえ、被告会社と契約している関西マネジ警備(株)の警備員川口も、被告会社業務部長大迫と同様の注意義務があつたのに、キーボツクス内のエンジンキー返還の有無を確認していなかつたのみならず、本件駐車場に駐車中の車両について、台数のみを確認したにすぎず、車両の施錠の有無等の確認をしなかつた過失が認められ、そうすると、被告会社に加害車を含めた保有車両の管理に過失があつたことは明らかであて、右管理責任を遂行し得なかつたことにより加害車の運転を許したのであるから、被告会社には、不法行為責任が問われるべきである。

2 因果関係

一般に、自動車の所有者(及びその利用者も含む)が自動車を駐車させる場合、右駐車すべき場所が、客観的に第三者の自由な立入を禁止する構造、管理状況にあると認めうるときには、自動車の所有者に管理責任が認められ、かつ、これとの間に条件関係の認められる事故が発生し、その事故により第三者に損害が発生したとしても、管理責任と損害発生との間には相当因果関係を認めることはできない(参照最判昭四八年一二月二〇日民集二七巻一一号一六一一頁)。しかしながら、客観的に第三者の立入を排除しているものとは認められない構造管理状況にある駐車場所で、管理責任を問われる方法により、自動車を駐車させたままこれを長時間放置しているものと認められるなど管理責任の違法性、有責性が強く認められ、かつ、放置された自動車の発進運行と、発生した事故とが場所的、時間的に近接していることが認められるときには、条件関係にある管理責任と事故発生による損害との間には相当因果関係を認めることができるものと解するのが相当である。管理責任の態様に違法性、有責性が強く認められるときには、事故に至るような運転を誘発したものと認められ、これとの間に場所的、時間的に近接していることによつて、これを客観的にみれば、当該運転者の独自性が排除され自動車の所有者(及び利用者)の運転がなお継続しているものと認められるからである。

これを本件についてみると、前記認定の如く、本件駐車場は間口が旧国道一七〇号線に面した約三〇メートルのうち、その三分の二に相当する北側約二〇メートルであり、かつ、南側は他の第三者が使用し、被告会社使用の北側三分の二と、他の第三者が使用する南側三分の一とを隔てる工作物もなく、かつ、本件駐車場の四囲にはこれを隔てる工作物が建造されていないうえ、とりわけ、下請及び会社従業員並びに顧客などが自由に駐車することのできる盛土をしたままの露天駐車場であつて第三者の立入りが比較的自由な場所であつたという本件駐車場の構造、並びに、普段は、下請所有車両も含む被告会社保有車両を集中管理すべく本社事務所にキーボツクスを設けて、被告会社業務課長及び関西マネジ警備(株)警備員にその管理を委ねていたものの、製紙原料等の売買を目的とし、多くの保有車両を運行、管理することによつて利益をあげ、経済活動を営む被告会社であるのに、昭和五九年三月一九日の夜から同月二〇日の早朝にかけては、本件駐車場に駐車中の車両七台のうち、加害車も含めた三台に施錠のかけ忘れ、エンジンキーの抜き忘れがあつたという事故当日の杜撰な管理状況に鑑みれば、被告会社の加害車を含む管理責任の違法性、有責性は強く、また、本件事故現場は本件駐車場から旧国道一七〇号線を一直線に約二キロメートル弱南下した距離にあつたという場所的近接性、関西マネジ警備(株)警備員川口が昭和五九年三月二〇日午前一時三〇分から仮眠状態に入り、寝入つたときにトラツクの発進音を聞き、その後、加害車運転手は酒気を帯び蛇行運転し、長距離運行していたものとはいえない状況下での同日午前二時二五分ごろに本件事故が発生したという加害車発進から事故までの時間的近接性の認められる本件では、客観的にみて第三者が自由に立入ることができる駐車場に、エンジンキーを差し込んだままの状態でドアーに施錠もせずに加害車を駐車していた管理責任と本件事故との間には、相当因果関係があるものというべきである。

3 その他の不法行為責任

原告らは、加害車運転者は被告会社の従業員であつて、同社の業務を執行中、本件事故が発生したものであるから被告会社は民法七一五条の責任を負う旨主張する。

しかしながら、全証拠によるも、被告会社の被用者が加害車を運転中に本件事故が発生したものと認めることはできない(なお、被告会社とは何ら関係のない第三者による事故でないことが認められるときには、択一認定により、業務の執行を外形理論からこれを適用すれば、民法七一五条による責任が生ずる余地があり、いずれにしても被告会社の責任は免れない。)

4 結論右によれば被告会社は不法行為責任により、原告会社は、原告中谷に生じた本件事故による損害を賠償する責任がある。

(二)  運行供用者責任

1 被告会社の運行供用者性

前記認定の如く、被告会社は加害車を所有し、被告会社の業務遂行のためこれを運行の用に供していた加害車の保有者であつたことが認められるのであるから、被告会社において、加害車の当該運行について指揮、監督ないし指示・制禦すべき地位を喪失していたことを主張、立証しない限り、被告会社は、運行供用者責任を負う。

2 運行支配喪失の有無

前記認定事実によれば、被告会社は捜査機関に対し、加害車が被告会社と何ら関係のない第三者によつて窃取されたものであるとの被害届を提出しないため、捜査機関においてもこれを窃盗被疑事件として捜査せず、原告小坂を被害者とする業務上過失傷害被疑事件としてのみ捜査を継続しているものの、事故現場に犯人と結びつく物的証拠も残されていなかつたことからいまだ犯人を特定するに至つていないこと、関西マネジ警備(株)の事件当夜の警備員は、その警備報告書に、昭和五九年三月一九日午後八時三〇分の本件駐車場点検時にはトラツク七台が駐車されていたと記載し、その後の巡回において車両の増減がなかつたために右報告書には特別の記載がなされていないことから、加害車が本件駐車場を出発する時刻においても、なおトラツク七台が駐車されていたものと推認されるのに、事故後に駐車されていた車両も七台であつたというのであるから、右事実によると、被告会社関係者が、本件駐車場において、加害車に乗り換えたものとする余地も全くありえないものでもないこと、事件当夜に、本件駐車場にはエンジンキーが差し込まれたまま、ドアーに施錠もせずに駐車されていた車両が三台も存在したのに、本件駐車場中央西側に向け駐車されていたとする加害車が運行され(なお、警備員は加害車の発進音のみを聞いており、発進時に衝突があつたとする証拠はない。)、旧国道一七〇号線に面して駐車されていた加害車と同様にエンジンキーが差し込まれたままドアーに施錠もされていなかつた四屯車両及び本件駐車場南西に西に向け駐車されていた、本社事務所からの見通しのきかない同二屯車両が、その運行が容易であつたのに、これらは運行されなかつたこと及び加害車発進時刻から判断すると、照明燈から我が身を隠すというよりも、むしろ、加害車運転者は、特に、加害車を運行手段にすることを目的としていたものとも推認されること、加害車運転者は事故当時飲酒しており、蛇行運転して被害車と正面衝突したというのであるから、その運転者は、被告会社主張の如く、転売目的ないし乗り捨て目的のため常習として車両を窃取していた者とはいえず、事故を発生させたこと及び飲酒運転の発覚をおそれ、また、被告会社の許可なくこれを使用したことが発覚することをおそれたために現場を逃走したものとも考えられ、犯人が逃走している事実をもつて、運転手が窃盗犯人でなければならないものともいえないことが認められ、右事実のみでも、事故時の加害車運転手が加害車を窃取した犯人であり、被告会社は加害車の運行支配を離脱していたとする被告会社の主張はとうてい認めることができないうえ、全証拠によるも、加害車運転手が、被告会社の加害車に対する運行支配を離脱させるべく、乗り捨て目的でこれを運行していたものであると認めることもできない。

のみならず、仮りに、事故時の加害車運転手が加害車を窃取した犯人であるもしても、加害車が駐車されていたとされる本件駐車場は、前記認定のとおり、旧国道一七〇号線に東側を面した間口が三〇メートルあり、四囲を囲む施設、設備などの工作物が建造されたこともなく、その南側三分の一は被告会社以外の第三者が駐車場として使用し、被告会社使用部分も、下請及び被告会社従業員並びに顧客などが自由に駐車できる駐車場であつて、客観的に第三者の自由に立入ることのできる駐車場であつたことが認められ、かつ、本件駐車場と本件事故現場とが場所的に、約二キロメートル弱の距離にあつて近接し、警備員川口が加害車の発進音を聞いた時刻と事故発生時刻とが近接しているうえ、飲酒した状態で加害車を蛇行運転し、長距離運転する状況になかつたことを考え合せると加害車の発進と事故発生とが時間的にきわめて近接していることが認められる本件では、被告会社の加害車に対する運行支配が、本件事故発生時において、既にその支配から離脱していたものとはいえない。

3 結論

右によれば、加害車に対する被告会社の運行支配は、なお継続しており、運行支配を離脱したことを認めるに足る事実は認められないから、被告会社は自賠法三条により、原告小坂に生じた本件事故による損害を賠償する責任がある。

第四損害

一  原告小坂の損害

1  受傷の部位及び治療状況等

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五、第八号証によれば、原告小坂は本件事故のため左頸部捻挫、左第四指切傷、右大腿打撲の傷害を受け、昭和五九年三月二〇日から同月二三日までは八尾徳洲会病院において、同月二九日から同年九月二〇日までは奥山外科において通院治療を受け、昭和五九年九月二〇日、症状として頭痛、頸部痛、肩こり、頸部の軽度の運動障害、頸部筋緊張大で自律神経の障害を残して症状固定したことが認められる。

2  治療関係費

原告小坂本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第六、第九号証、原告小坂本人尋問の結果を総合すると、原告小坂は本件事故による傷害治療のため八尾徳洲会病院において二万二、五四五円、健保を使用した奥山外科において初診料八〇〇円、診断書料二〇〇〇円の各治療費を要し、かつ、本件事故により毀損したメガネに代えて、その購入費五万六、〇〇〇円を要したことが認められる。

3  休業損害

原告小坂本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の一、二、第一一号証の一ないし九、第一二号証、原告小坂本人尋問の結果を総合すると、原告小坂はタクシー運転手として原告会社に勤務し、事故前一か月平均二五万二、三〇〇円の収入を得ていたが、本件事故のため、昭和五九年三、四、五、六、八月の各月につき減収を生じ、合計二五万三、〇七二円を逸失し、かつ、賞与減額分四万五、九二二円を逸失したことが認められる。

4  後遺障害に基づく逸失利益

前記認定事実及び原告小坂本人尋問の結果によれば、本人の努力により通常勤務を続けているものの、原告小坂は本件事故による前記後遺障害のためタクシー乗務による水揚げが減り、そのため昭和五九年九月二〇日から一年間、少なくとも一七万八、三七一円(昭和五九年度年収三五六万七、四三二円の五%)の給与減収が生じていることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

なお、被告会社は、原告小坂の後遺症につき自賠責調査事務所により非該当と判断されている旨主張し、乙第一九号証を提出するが、もとより自賠責調査事務所による調査結果(右調査結果は原告小坂の実通院日数が少なかつたことによるものと考えられる。)は裁判所を拘束するものではなく、前記認定の如く、原告小坂に本件事故による後遺障害が残存し、これにより減収が生じていることが認められる本件では、右主張は採用しない。

5  慰藉料

本件事故の態様、原告小坂の傷害の部位、程度、後遺障害の内容、程度、その他、原告小坂は被害車が道路西側の田に転落して大破し、前記傷害を負つたのに、収入減はあつたものの本人の努力により勤務を継続していること等諸般の事情を考慮すると、原告小坂の慰藉料を九〇万円とするのが相当である。

6  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告小坂が被告会社に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一四万円とするのが相当であると認める。

二  原告会社の損害

1  車両損害

証人車田一二三の証言により真正に成立したものと認められる甲第四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三ないし第一五号証、被写体につき争いがなく、証人車田一二三の証言により原告ら主張どおりの撮影者、撮影年月日であることの認められる検甲第一三ないし第一八号証、成立に争いのない乙第八、第一五号証、弁論の全趣旨による真正に成立したものと認められる乙第一四号証、証人車田一二三の証言、原告小坂本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告会社所有の被害車は本件事故のため主として車両の前部が大破し、いまだ、その修理をしていないものの、その修理費として合計一四四万七、八五〇円(但し、アジヤスターの査定では、引揚・牽引費一万円を含めて一〇五万八、三一〇円)が見積られているところ、被害車と同程度の中古車小売価額は一〇一万円であること、しかしながら、被害車はタクシー業務に使用された二年一か月の間に約二〇万キロメートルも走行しており、またプロポンガスを動力源とする車両であるため、中古車としての市場価額は確定しえないこと、タクシー仕様への改造費も含めた被害車の購入費はボデイ価額を一七〇万円とすると合計二一七万七、七〇〇円であつたが、原告会社では、通常、これを新車で購入後五年間使用のうえ廃車にしていること、被害車の本件事故当時における定率法に基づく残存価額は八三万四、〇五九円(円未満切捨て。)であること、被害車のスクラツプ価額は一万円であることが認められ、右によれば、被害車修理費はその残存価額を上回ることが明らかであるから、車両損害を全損として評価認定すべきところ、タクシー営業に使用した被害車と同等の車両の中古車購入価額について証明のない本件では、その残存価額を定率法に求めるほかない。そうすると、定率法により被害車の事故当時における残存価額は八三万四、〇五九円であつたというのであつて、被害車両損は、これに引揚・牽引費一万円を加算し、その合計から被害車スクラツプ代金一万円を控除した八三万四、〇五九円とするのが相当である。

2  休車損

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一七号証、証人車田一二三の証言、原告小坂本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被害車は本件事故のため修理するまで使用不能となつたこと、原告会社は被害車を使用して一日平均三万六、〇〇〇円の水揚げがあつたこと、原告会社では利益率が二四%であつたこと、被害車の如く、車両に改造を加えて営業車とし、かつ、営業車として使用するための陸運局の許可を得るため、新車の購入発注から納車まで少なくとも三〇日間は必要とすること、原告会社では事故から一か月後に新車が納品されたため、これを被害車に代えて使用していることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右によれば、本件事故のため修理するまで使用不能となり、事故の日から一か月後に納品された新車を被害車に代えて使用していたものの、一か月間はこれを営業に使用することができなかつたことにより原告会社は一日八、六四〇円の割合による合計二五万九、二〇〇円の損害を被つたことが認められる。

3  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告会社が被告会社に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は一〇万九、〇〇〇円とするのが相当であると認める。

三  原告中谷の損害

(一)  成立に争いのない乙第一七号証、原告中谷本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第三号証の一、二、原告ら主張どおりの写真であることに争いのない検甲第八号証、原告中谷本人尋問の結果により原告ら主張どおりの写真であることの認められる検甲第九ないし第一二号証(検甲第一一、第一二号証は被写体について争いがない。)、検甲第一九号証の一、二、第二〇、第二一号証、原告中谷本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、加害車が飛び込んだ本件事故のため、原告中谷が使用していた植木養生畑で養生されていた植木(マキ五本、ツゲ三本、椿一本)をなぎ倒すなどしてその芯木や枝、根を破損し、また、植木養生畑にもれた加害車の燃料油除去のためその修復作業を必要とし、左記内訳のとおり合計一七二万円の損害を被つたことが認められる。

内訳

(ア) マキA 六〇万円

門かぶりのマキであつて、長さ約七メートルの投げ枝に特色があり、高さも五メートル程度はあつた(仕入後の養生期間一〇年)ことから、造園業者への販売価格は一〇〇万円程度であつたのに、本件事故のため投げ枝が切断され、門かぶりとしての商品価値がなくなつた。しかしながら、全損となつたわけではなく、少なくとも右一〇〇万円の六割に相当する損害を被つたものと認める。

(イ) マキB及びC 合計三五万円

いずれも庭園芯木であつて、マキBは造園業者への販売価格で三〇万円、マキCは同二〇万円程度であつたのが、本件事故のために根が切断され全損となつた。

しかしながら、マキB、マキCはマキAと異なり、特に稀少価値があるわけではなく、需要と供給に支配される、きわめて市場性の強い植木であるため確実な価格としては、その七割に相当する金員であると認める。

(ウ) マキD及びマキE 合計三五万円

いずれも庭園芯木であつて、マキDは造園業者への販売価格で七〇万円、マキEは同三〇万円程度であつたのが、本件事故のため枝が数か所破損し、残存価値は半減した。

しかしながら、マキD及びマキEはマキBなどと同様にきわめて市場性の強い植木であるため確実な価格としては、その七割に相当する金員であると認める。

(エ) ツゲ三本及び椿一本 合計七万円

ツゲは一本について造園業者への販売価格で二万五、〇〇〇円、椿は一本同二万五、〇〇〇円程度であつたが、本件事故のためツゲ三本及び椿一本が全損した。

しかしながら、被害にあつたツゲ三本及び椿一本も、きわめて市場性の強い植木であるため確実な市場価格としては、その七割に相当する金員であると認める。

(オ) 修復費 三五万円

(二)  本件事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、原告中谷が被告会社に対して本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は一七万二、〇〇〇円とするのが相当であると認める。

第五結論

よつて被告会社は原告小坂に対し、一五九万八、七一〇円、およびこれに対する本件不法行為の日である昭和五九年三月二〇日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告会社に対し、一二〇万二、二五九円、およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告中谷に対し、一八九万二、〇〇〇円、およびこれに対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 坂井良和)

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